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March 04, 2004

“楽な仕事なんて無ぇんだよ”とおじさんが言った。

タイトルは、あるパン屋さんのおじさんが言った言葉でした。

piacere blog : 「コンビニ」という仕事の敷居を下げたもの

solaさんから詳細なトラックバックをいただきました。ありがとうございました。コメントにさせていただこうかな、とも思いましたが、ちょっと長くなりそうなのでまたもトラバさせていただいております。

話は変わりますが、バールもどきさんがエントリーの中でおっしゃっている、「年齢層・男女の別」を判断するキーの存在。これは実際に存在します。

なるほど。あるんですね。現場の方にはっきり「ある」と言っていただけると説得力がありますね。

で、確かに昔のレジって、POS(※1)ではなかったので部門、値段をいちいち手打ちしなければならなかったと思います。そんな時代に発注をしていた人たちはものすごく大変だったんだろうな、と思います。

よくやりがちなのが「部門」を誤入力する、というミスでした。“ひとつ戻す”という操作をしなくてはいけないのですが、これが結構ややこしかった気がします。しかしこれはその場の問題ですから、大きな問題ではないのですが、ソレを見て発注をしていた店長はたいへんだったと思います。こいつまた間違えたのか、とか思いながら正しいものを見つけなくてはいけなかったでしょうし、そもそも「何時ぐらいに何がどれくらい売れた」のをそこから読んで発注するわけですからね。

solaさんが書かれているように“外から見えない作業”というのはどんなジャンルの仕事、アルバイトにも存在しますよね。ビデオ屋さんなんかは割りとのんびりしているようにも見えますが、レンタル用ビデオを何を何本入れるとかの戦略的なことにもバイトの意見を聞く店長さんもいますし、お客さんが一回手に取って止めたビデオを棚の並びを間違えて戻したりしてないかとか(ジャッキーチェンのところにジェットリーのを戻したりとか) 細かいことをやっています。あと「延滞になった人」のリストの日付を見て、1週間以上延滞していると電話する、とか。結構いろんな作業があります。

私が比較的長くバイトをしていた喫茶店は、24時間営業でした。なので、掃除をするタイミングが非常に難しかったということがありました。吉野家などはお客さんが少ない時間を見計らいカウンター単位で掃除をするのだそうですが、喫茶店はそうも行きません。やはり人が少ない時間帯を見て、雑巾と箒で地道に掃除をします。そして完全にお客さんが居なくなった深夜のタイミングでざーっと一気に掃除機をかけます。フロアが1人しかいない時間帯などはキッチンの人間も手伝うのが普通ですが、1人で2台の掃除機を操っていたつわものもいました。
さて、キッチンの掃除。これが地獄のようにたいへんです。やはり食べ物が出ない時間帯、お客さんが少ない時間を狙います。まず、「安全地帯」を作ります。キッチンとフロアの間の狭いスペースです。カウンター小さいのがあるのですが、まずそこを掃除します。それが「安全地帯」と呼ばれるゾーンになります。次にキッチン内の食器とグラスを「安全地帯」に移動させます。小鍋に移したカレーなども移動します。そこで一気にコンロ周りと包丁まな板関係、ジューサー関係を洗います。つまりこの作業が終わるまでは、安全地帯にあるコーヒー(サイフォン式)と小鍋のカレー(大きな鍋で湯せんしてある)“しか”ない店になってしまいます。“うちはコーヒーとカレーだけだから”というような頑固マスターの店、ではないのです。定食屋さんのような喫茶店です。麻雀ゲーム機で勝って進呈されるチケットで飲食が出来るような店なのです(ある意味それもぎりぎりですが) もっと言ってしまえば賭博麻雀ゲーム屋が母体です。税金対策の喫茶店なのです。夜中に「八宝菜定食2つ」とか言われる店なのです。もう必死です。猛烈パワーでコンロを洗います。でもすごい油汚れなので、完全に“元に戻す”までコンロ周りだけで15分はかかります。言い換えればたった15分ですが、来るものなんですよね。「しょうが焼き定食とナポリタン」 しかしながら「深夜に召し上がりすぎかと思いますのでカレーとコーヒーでは如何でしょう」とは言えないわけで。一応「ただいまキッチン内を清掃しております。すぐにお出しできるのはカレーとコーヒーですが」という説明はします。カレー、というメニューの特性もあるのか「じゃあカレーを超大盛りで」と変えてくださるお客さんも半分ぐらいはいます。普通盛り料金で出します。そういうときは。ある時期掃除をしているたびに来るおじさんがいました。「大盛り割引を狙っているのでは」と店員内で噂がたったほどでした。残り4割ぐらいは「待ちます」と。あと1割は帰ってしまいます。こちらの気持ちとしては帰ってもらったほうが気が楽ですが、そうも言ってられずさらにコンロを磨くわけですが。
「焼ける、切れる、ジューサー使える」状態になれば、あとはまあ、タオル類、食器類の漂白を「8割2割」に分けてやったり、床を掃除したりです。漂白作業は「そういうのが大好き」な社員の方がいたので、私は運ぶのを手伝うぐらいで済みましたが。時間はかかります。食器類は膨大な量があるので。なんだかんだで1時間半から2時間ぐらい掃除はかかります。掃除がある日とない日はだいたい1日か2日おきなのですが、決めるのは社員の人なので「掃除をする時間帯」が過ぎてしまえばその日はなし、という感じでけっこうその2時間はどきどきしていました。

とまあ、どんな仕事、バイトでも見えない作業はありますね、というお話でしたが、最後にあるおじさんが言っていた言葉を。

そのおじさんの店は私が2社めに入った会社の近くにあり、市販の惣菜パン+おばさんが作る手作りサンドイッチ+お弁当(業者の品)+飲み物+タバコ+お菓子類+乾電池 とかそういう感じの店でした。昔から街にぽつんとあるような。「○○パン」とメーカのソレと商店名の看板が出ているのですが、その後ろに半分ぐらい隠れて「××電気」という商店名の苗字と同じ電気店の看板がかかったままになっていました。かなり色あせてしまっていました。

ある日、昼をだいぶ遅れた時間に弁当を買いました。おじさんは「仕事は忙しいかい?」と聞いてきました。「めちゃめちゃ忙しいということでもないですが、楽でもないですね」と何気なく私は返事をしました。おじさんは自分の膝の辺りをぽんぽんと叩いて「楽な仕事なんてねぇんだよ・・・」と静かに言いました。「俺もこんなになっちまう前は電気屋やっててさ。屋根から落ちて出来なくなってからはまあ、こんな店にしたわけだけど。まあ、何をやっていてもそれなりの苦労はある。身体が動いても動かなくてもな。楽な仕事なんてねぇんだ。忙しいときはそう思って頑張ってくれな。若いんだから」

おじさんは下半身が不自由で、車椅子や腕だけで運転できる車で移動をする生活でした。それまでは生まれつきなのかな、と思っていましたが、そのときに事故だった、ということを始めて知りました。都内に家と店を兼ねるものを構えて電気屋さんをやっていたわけですから、頑張って働いてきたんだと思います。それが突然電気屋ができなくなった。おそらくおじさんのそれまでの人生設計の中に「パン屋のオヤジになる」ということは一切含まれていなかったと思います。それでも家族と自分のために、仕事を変えてなお頑張り続けていたのだと思います。

仕事をしていると、行き詰ったり、自信がなくなったり、満足のいかない出来でも「まあ規定演技としては十分か」と思ってしまったりすることがあります。そんなときにいまでも必ず思い出すのはそのおじさんの言葉です。楽な仕事なんてない、楽じゃないことをしているから生きていける。そう思って、気持ちを入れ直しています。

Posted by yae at March 4, 2004 12:00 PM | TrackBack
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